スマートホームの共通規格「Matter」とは何か|Matter対応製品の展開によってどう変わる?

CES2023でも大きな話題となっていた「Matter」。

スマートホームの共通規格とされており、Apple・Google・Amazonなど、米国の名だたる企業をはじめとし、280社以上が参画しています。

Matterの参画企業
Matterの参画企業
image:CSA(Promoters)

そのMatterは、ニュースでも色々と話題になっているのですが、いまいち何ができるのかわからない、どう変わるのか不透明な概念で、雲をつかむような話ばかりです。

そこで、今回の記事では、過去5年間スマートホームに関する情報発信をしている私が、実際の利用感や日本におけるスマートホーム市場の動向を踏まえ、どのような規格か・どう変わりうるのかを解説します。

Matterで変わりうることを5行でまとめ
  • 買う際に迷いづらくなる
  • 製品の設定がしやすくなる
  • ホームアプリにまとめやすくなる
  • 連携できる製品が増える
  • スマートホーム家電の対象が更に増える

Matterとは何か

Matterとは、異なるプラットフォーム間で、スマートホーム家電の相互運用性を認証する規格です。

米国のIT企業を中心に、280社以上が参加している無線通信規格標準化団体(CSA:Connectivity Standards Alliance)が策定した、IoT機器の共通規格となります。

その具体的な役割やMatterが導入された背景について、まずは解説していきます。

Matterの役割

Matterは、共通のアプリケーション層とデータモデルを使用して、複数のIPネットワークにまたがるデバイス間の通信を可能とします。

以下の図の通り、TCP/IP 4階層モデルのアプリケーション層に位置付けられ、上位レイヤーと下位レイヤーを共通化します。

MatterをTCP/IP 4階層モデルに合わせ図解
図:nordicsemi
(TCP/IP 4階層に分類、具体的なサービス名を明記し改変)

Matterは、それ自体がダッシュボードやアプリを持つものでなく、複数のプロトコルを抽象化し、各種アプリとの間でAPI連携するための、「橋渡し役」のような存在です。

そのため、私たちが接するのは、これまで通りアレクサやGoogleアシスタント、あるいはスマホ・タブレットのアプリとなります。

というのがMatterの概念ですが、実際に製品やサービスに接する私たちとしては、これだけだとわかりにくいので、もう少しざっくりと説明します。

Kou

Kou

Matterは、ニュースとかでよく話題には上がるものの、私たちが実際に触れているものでもないので、いまいちその良さがイメージできないというか、ぼんやりしてますよね。。

厳密には少し異なりますが、イメージとしてみてください。

従来のスマートホームは、以下図の矢羽や赤線の通り、通信(それにかかわる機器設定)が混沌としていました。

Matter適用前のスマートホームの通信・操作系統
赤い線(通信)や矢羽(系統)が多くてごちゃごちゃしていますよね。

そのごちゃごちゃした所を、Matterが覆いかぶさり、まるっとまとめてくれるので、設定や相互接続、横断的な操作がしやすくなります。

Matter適用後は通信や操作を抽象化することによって、シンプルになる
ごちゃごちゃした部分をMatterが共通化することによって、接続がシンプルかつ横断的な操作ができるようになるんです。

このように、シンプルになることによって、ユーザーが導入・設定をしやすくなったり、色んな製品を組み合わせて各人の生活に合った使い方ができたり、メーカー側の開発コストなども減ることが、Matterを適用することの良さです。

Matterが導入された背景

Matterが導入された背景は、上記ボックス図の通り、各プロトコルやサービスが分断され、スマートホームが複雑化していたことにあります。

例えば、ユーザーアプリの部分であれば、現状「Amazon Alexa」「Googleアシスタント」には対応しているものの、「HomeKit」は対応していないといった製品が多くあります。

そのため、特にAppleユーザーがスマートホーム化するには、純正のホームアプリで管理できず、別にアレクサやGoogleアシスタントを使う必要がありました。

これは、iPhoneで直接操作のできるSiriが利用できなかったり、Apple製品間連携において、課題がありました。

課題の一例
  • iPhone/iPadのSiriから家電操作ができない(サイドボタンやHey Siriの呼びかけから家電を呼び出せない)
  • AirPodsからスマートホーム家電を操作できない(Siriではないため)
  • Apple Watchから家電を操作するのに、機器毎に個別アプリのインストールが必要
  • Macのホームアプリから使えない
  • Apple TVから直接家電を制御できない

iPhoneユーザーが、HomeKit(Siri)ではなく、アレクサやGoogleアシスタントを使うとなった場合の課題です。

加えて、スマートホームは、複数の製品を連携させてようやく体験できる概念なのですが、その前提にも関わらず、メーカーの囲い込みにより、他社製品同士を連携させることができない場合が多いです。

普通の電化製品と比べると、ここにユーザーの思惑とメーカーの思惑に大きなギャップがあります。

これをAIアシスタントの機能(Alexaの定型アクションなど)である程度まとめることもできますが、メーカーの専用アプリと比べると、できることに差があり、柔軟な設定や操作ができません。

また設定のための各種通信も、ある製品はハブが必要で接続にBluetoothやZigbee、ある製品ではWi-Fiのみで通信といった形で、異なっています。

デバイスごとの通信方式
デバイスごとに通信方式が異なる
(図:nordicsemi

そのため、追加でやりたいことのために、用途が同じ製品を買い直しをしたり、使い方を1から覚えて設定し直したりする必要があるのが課題です。

課題の一例
  • A社の製品はA社のスマートリモコンが必須だが、B社の製品と連携させるためには、B社のスマートリモコンが必須で、同じ用途のスマートリモコンを買い直す必要がある
  • ある製品ではハブが必要、ある製品ではWi-Fi設定とBluetoothの設定をいじるなど、設定の仕方が異なる

このように、ユーザーアプリや通信規格が乱立していることにより、以下のような課題があるのです。

総合的な課題(例)
  • 本当は他の製品を買いたいけど、そのメーカーでまとめざるを得ない
  • ある製品を使いたいために、ハブ製品を買い直す必要がある
  • やりたいことに対し、どの製品を選べば良いかわからない
  • 設定がめんどくさい、難しい
  • AIアシスタント毎に連携設定をする必要がある

日本は、海外よりもスマートホームが普及しておらず、その選択肢も比較的少ないため、そこまで大きな課題にはなっていないようにも思えますが、このような混沌とした状況にあるのが、今のスマートホーム市場の課題です。

その点Matterは、下位レイヤーから上位レイヤーまですべて共通化され、それらをまとめて抽象化することによって、横断的な設定・コントロールをできることが画期的なのです。

ただ、共通化されているからといって、実際にはどう変わるの?という点が疑問に思われると思いますので、次の章で解説します。

Matterによって変わりうること

Matterの概念について解説しましたが、実際どう変わるのかがわかりにくい部分。

そこで、ここではスマートホーム家電を実生活で利用するにあたって、その課題と解決しうることについてまとめました。

製品の初期設定がより簡単になる

スマートホーム家電の最大のネックは、一般的な家電と比較して、ネットワーク・アプリの設定が前提となっていることです。

電源を差してボタンを押せばすぐ使えるようになるわけではなく、その製品仕様を満たすような使い方をするには、主に以下のような工程をとる必要があります。

  1. スマホアプリのダウンロード
  2. クラウドサービスへのアカウント登録
  3. (必要に応じて、ハブの設定・接続)
  4. 宅内Wi-Fi設定(Wi-Fiルーターの設置・セキュリティコードの確認が必要)
  5. 音声アシスタント連携

最近のスマートホームデバイスは、これらが徐々に簡略化されていて、たとえば245の工程においては、Amazonの「簡単セットアップ(Frustration Free Setup)機能」や「App-to-App連携」などによって、ある程度省くことができるようになっています。

しかしながら、その対応製品も現状は少なく、多くのスマートホーム家電で上記の工程が必要となります。

この工程は、これに慣れている人でないと、面倒なことと感じます。

Kou

Kou

実際、このブログを通じてスマートホームに関する質問を多くいただくのですが、その大半が、この設定回りに関する事項でした。

当サイトで独自にインターネット調査をした結果に基けば、スマートホーム家電の課題は、「製品の設定が面倒、難しい」と感じる人が約27.6%を占め、その割合が最も多いです。

この設定面の課題を解決することが、ユーザーにとって重要なポイントです。

スマートホーム家電で課題に感じる点を示したグラフ図(BENRI LIFE調査)
図:スマートホーム家電(スマートホーム化)で課題に感じる点

Matter対応製品は、その仕様上、従来のHomeKit対応製品の認証コードのように、QRコードをかざすだけでネットワークやAIアシスタント連携を含めた初期設定ができるようになったり、Androidの「Fast Pair」機能を用いた登録などもできるようになります。

Kou

Kou

イヤホンの初期設定やペアリングするときに、イヤホンとスマホを近くに置くと、スマホにポップアップ画面が出てきて、すぐ設定できるやつあるじゃないですか。あのイメージで、スマートホーム製品もサクッと登録できる製品も出てくると思われます!

CES2022において、AndroidのFast Pair機能を利用して、デバイスに付属のMatter向けQRコードをスキャンするだけで、スマートホームデバイスをGoogle Homeやその他付属アプリに設定する機能が紹介されていました。

これにより、従来は製品の初期設定(スマホアプリの登録〜AIアシスタント連携)に約5工程必要だったものが、1〜2工程(QRコードかざして登録するだけ)程度で済むようになる可能性が高く、結果として、スマートホームの導入がより進みやすくなります。

ハブを意識する必要がなくなる(仕組み作りもしやすくなる)

スマートホーム家電の中には、遠隔操作用のインターネットと接続するために、以下のような専用のハブ(中継機)を導入するものが存在します。

特に、照明関連の製品で、それらが採用されることが多いです。

ThreadとMatterのネットワーク構成図
Hueのスターターキット。中央がハブ製品。
照明の場合、ハブは「Zigbee Light Link」という専用の通信に変換する役割を持つ

他にも、IKEAのトロードフリや、広義ではSwitchBot Hub miniもそれに該当しますね。

最近では、スマートホーム家電と直接Wi-Fi(http通信)するスマートホーム家電が増えてきましたが、このようなハブが必要となっている製品は、まだまだ多いです。

このハブが、Matter互換となることによって、他社製品と相互に連携することができる製品が増えてくることと思われます。

例えばCES2023では、韓国のサムスン電子が他社製を含む複数のMatter対応デバイスのハブとして「SmartThings Station」が発表しています。

こういった製品により、一般家庭に導入される際には、製品ごとに独自のハブを購入して設置する必要はなく、単一のハブ(または無し)で良いこととなります。

そのため、Matter対応であれば、どの製品とも連携がとりやすくなることで、従来難しかった他社製品と連携した仕組みづくりを行えたり、ユーザーが製品を選ぶ際に、「どの製品を選べば良いのか」「一方の製品を買ってしまうと、もう一方の製品の機能が使えない」といった問題も起こりにくくなります。

ローカル接続が可能となる

スマートホーム家電は、そのほとんどでインターネット接続が前提となっており、インターネットが落ちた場合、動作がしなくなる問題がありました。

その点、Matterのデバイスではネット接続が失われた場合でも、動作が可能な仕様となっています。

先述の図の通り、Wi-FiとIPv6ベースのプロトコルである「Thread」の上に位置するアプリケーション層として機能しており、かつローカルネットワーク上で動作するオープンソースにもなっているためです。

図:スマートホームを構成するThreadとMatterのネットワーク構成図
(image:WHAT IS THREADーthreadgroup)

スマートホームデバイスは、空調家電や防犯・見守りといった、生活において命を預かるような場面でも利用される製品です。

そのため、スマートホームをより安全に導入でき、かつ安定的に操作できることは、その普及に向けて何よりも重要なポイントです。

各種ホームアプリへの対応がしやすくなる(特にApple HomeKit)

この点が、Matter対応によって、ユーザーが最も利便性を得られそうな内容なので、少し細かく解説します。

Matter対応製品は、その性質上、各種AIアシスタントやその関連アプリと横断的に接続できるようになります。

つまり、Matterに対応していれば、どのスマートホーム家電もAmazon AlexaやGoogle Assistant、Siriで操作でき、かつその関連の「ホームアプリ」に登録することが可能となります。

この点、大きく影響を受けるのは、Appleの「HomeKit」です。

これまでのスマートホーム製品の傾向として、「Amazon Alexa」「Google Home」には対応しているものの、「Apple HomeKit」への対応はしていないか、または「Siri」のみの対応に留まるといった状況でした。

Kou

Kou

Appleは、スマートホームの関連製品も少なく、そこまで力を入れていない、もしくはシェア獲得に苦戦している状況です。。。

以下では、日本のスマートスピーカーの利用率を調査しましたが、Amazon EchoやGoogle Nestと比べると、HomePod(Siri)は、それほど普及していないことが見て取れます。

スマートスピーカー(スマートホーム向けAIアシスタント)の利用率を示したグラフ図
図:日本のスマートスピーカー(スマートホーム向けAIアシスタント)の利用率

あるいは、「HomeKit」には対応するものの、それ以外のアシスタントには対応していないといったいずれかのパターンです。

このような状況となっているその最たる理由は、従来メーカーがHomeKit対応製品を販売するために、AppleのMFi認証を潜らなければならなかったことにあります。

Appleが承認した新しいチップを使い、HomeKitの認定を受けた特別な製品設計をする必要があることが、メーカー側の大きな負担となっていました。

HomeKit対応のDanalock
2018年4月に発売されたDanalockは、この認証問題により、
HomeKit版とBLE連携版を分けて発売することを余儀なくされた(現在は販売終了)
Kou

Kou

なので、スマートホーム製品の多くは、「Amazon Alexa・Googleアシスタント」対応、または「HomeKit対応」のものに分かれてるんですよね。。

Appleも、2019年12月にHomeKitアクセサリー開発キットのオープンソース化したりと、その要件が緩和されましたが、結局のところ販売するためにはMFi認証が必要となります。

また、Siriは他のAIアシスタントと異なり、アシスタント内で電化製品を操作・管理するための機能を有していません。(HomeKitがそれを担っています)

iOS13以降は、ショートカットでSiriとHomeKitの横断がある程度できるようになりましたが、ホームアプリへの登録も、HomeKit対応製品でないとできないです。

そのため、やりたいことに応じて、「ショートカット」機能を用い、自分で命令セリフとその操作を1つ1つ仕組み作る必要があります。

Siriのスマートホーム操作のための設定
Siriは、1つの操作につき1命令を設定する必要があるので、面倒。。。

しかし、Matterは各サービスやプロトコルを抽象化し、横断できる性質にあること。

何より、iOS16でMatterに対応し、iPhone自体が、Matterの操作デバイス(Matter Controller)を担うこととなり、Matter対応製品はHomeKitを利用することができるようになります。

HomeKitのスマートホーム制御
HomeKitの機能で製品の設定や自動化の設定も簡単になる

つまり、1つ1つ仕組みを作らなくても、純正のホームアプリの機能を用い、従来の様々なスマートホームデバイスを管理し、制御できるようになるのです。

Kou

Kou

つまり、Apple利用ユーザーがスマートホームを導入しやすくなります!

特に日本は、iPhoneのシェアが高いため、HomeKitに対応するというだけで相当数の方がスマートホームを導入しやすくなり、その普及への鍵を握ることが想定されます。

加えて、各社「ホームアプリ」への直接登録と操作ができることによって、メーカーのアプリを介さなくても、スマートホーム製品をホームアプリへ集中管理できるようになると思われます。

スマートホームはメーカーを揃えないとアプリがバラバラになって管理が面倒
スマートホームはメーカー毎にアプリがバラバラと増えていくのもネック。
大量のアプリをホームアプリに一元管理できる。

このホームアプリへの集中管理によって、結果的にスマートホームの設定管理もしやすくなるといった副次的な効果も出てくるため、スマートホーム製品をより運用しやすくなります。

Matterはスマートホーム普及の鍵を握る

Matterは、名だたる企業が参画する関係上、テック業界では非常に大きな注目を集めており、今後のスマートホーム普及の鍵を握ると想定されています。

私も同様に考えており、その見解を私なりの考えを持ってまとめていきます。

スマートホーム家電の適用範囲が更に広がる

Matterは、一般的なホームネットワークを形成するほぼ全ての通信規格を抽象化し、サービスとの橋渡し役を行うため、スマートホーム製品に限らず、私たちがよく手にしている一般的な電化製品もその対象となってゆく可能性が高いです。

加えて、セルラー(5G)なども含めた多様な通信規格を抽象化するため、いずれスマートシティやスマートファクトリーといった産業用途にも転用されていく可能性があります。

Matterの真に注目すべき点は、この「スマートホームの要素を内包する一般的な電化製品や設備」がより増える可能性があることです。

スマートホームと電化製品の概念図
スマートホームは、徐々に一般的な電化製品へ浸透する?

より製品が増え、かつ導入しやすくなると、当然利用者も増え、今までより高度な相互連携や各人のライフスタイルに合った、利便性の高い仕組みづくりもできることとなります。

かつそれらの要素が住空間に限らず、様々な場所で利用されることによって、ユーザーへ製品の利用を相互に強いることとなり、結果として更に普及する可能性もあります。

つまり、スマートホーム家電に限らず「何らかの通信機能を有する全ての電化製品」に影響を及ぼし、そのスタンダードの一つとなる可能性があること。

この可能性こそが、Matterがインパクトを感じる点です。

日本市場における「キャズム超え」の契機となる?

スマートホームは海外ではそれなりに普及していますが、日本ではまだそこまで普及しているとは言えません。

以下は、当サイトにて独自に調査した、日本のスマートホーム家電の認知率とその製品の利用率です。

結果、日本では認知率が「73.6%」と認知されている状態にあると言えますが、実際の利用率は「10.9%」と乖離があることがわかっています。

スマートホーム家電の認知率と利用経験(BENRI LIFE調査)
図:スマートホーム家電の認知率・利用経験

同様に、総務省の情報通信白書(P.306)でも、2021年のスマート家電等の世帯保有率ベースでは「9.3%」となっており、同2021年のICT総研の調査においては、スマート家電を利用している回答者(n=3,226、内n=426)は、「13.2%」といずれも10%前後で近似値となっています。

総務省の通信利用動向調査
(出典)総務省「通信利用動向調査」

イノベーター理論に則れば、日本では、未だ「アーリーアダプター層」での採用に留まっている市場と見られ、丁度キャズムの壁(普及率16%)を越えるか否かという段階にきています。

Matterの「シンプル・相互運用性・信頼性・堅牢性」といった特性により、アーリーアダプター層が抱えていた課題を解決しうること、また先述の既存電化製品への浸透のこともふまえれば、このキャズムの壁を越え、メインストリームへの普及が進む可能性があります。

イノベーター理論を踏まえると、日本のスマートホーム市場はキャズム手前
キャズム(16%)の壁を超えると、普及が加速する

そのため、Matterは日本においても、スマートホームの普及の鍵を握ると考えられます。

家電市場におけるスマートホーム分野の普及という観点です。スマートホームは、複数の製品・サービスによって形成される概念のため、イノベーター理論の考え方が必ずしも当てはまるとは言い切れません。あくまで将来予測の見方の一つとしてください。

独自の展開により形骸化しないかが懸念

ここまで、Matterに大きな期待を寄せるような内容ばかりでしたが、その一方で懸念点もあります。

その懸念点とは、Matterによって各規格が共通化されたところで、結局上位レイヤーに存在する各サービスで、独自の発展を遂げてしまわないか、という点です。

Matterが適用されるとは言っても、AIアシスタント周りの設定の簡略化に用いられるだけで、他社製品との連携は制限される、といったことは出てくると思います。

同様に、すでに多くの個別機能があるAIアシスタント・スマートホーム製品の全てを横断的に連携できるとも思えません。

仕様上、他社製品と連携できるとは言っても、実際に提供される機能としては、これまで通りホームアプリの中のもののみに留まるかもしれません。

Matter ControllerとMatterデバイスの操作
Matter ControllerとMatterデバイスとの操作
(image:nordicsemi

このように、Matterが適用されるものの、実際のメーカー・サービスプロバイダーからの製品サービスが独自機能を有することで、結果的に統一的なユーザビリティをもたらさなかったり、相互接続ができない、といった課題も出てくると思います。

また、Matterと同じような位置付けの規格として、日本ではECHONET Liteがすでに浸透しており、経産省もそれを推進しています。

このような背景があるからか、Matterの参画企業に日本企業はまだほとんどその名を連ねておらず、様子見の段階のようにも感じます。

このことから、各社独自機能や日本独自の発展によって、Matter自体が形骸化、あるいはガラパゴス化する可能性もなきにしもあらずです。

とはいえ、先述の「Matterによって変わりうること」の章で示した通り、これまでの設定回りの課題を少なからず解決することになりそうなので、この点が今後どうなるかは、当サイトでもウォッチしていきたいと思います。

Matter対応製品は?

Matterは、リリースされたばかりの規格で、米国でも日本でも、まだ発売製品が限られています。

現時点では、以下の製品が明確にMatter対応とされています。(対応予定含む)

カテゴリ特徴
Amazonデバイススマートスピーカー:Echo Dot (第3世代)、Echo Dot (第5世代)、Echo Dot (第5世代) with clock、Echo (第4世代)、Echo Studio、Echo Show 5 (第2世代)、Echo Show 8 (第2世代)、Echo Show 10 (第3世代)、Echo Show 15、Echo Dot (第4世代)、Echo Dot (第3世代) with clock、Echo Dot (第4世代) with clock、Echo (第3世代)、Echo Show 5 (第1世代)、Echo Show 8 (第1世代)、Echo Input、Echo Flex
Googleデバイススマートスピーカー: Google Home、Google Home Mini、Google Nest Mini、Google Nest Audio
ディスプレイ: Google Nest Hub(第 1 世代)、Google Nest Hub(第 2 世代)、Google Nest Hub Max
Wi-Fi ルーター: Google Nest Wifi Pro (Wi-Fi 6E)
スマートフォン:Androidスマートフォン(Android 8.1以上)
Appleデバイススマートスピーカー:HomePod(第2世代)
スマートフォン:iPhone(iOS16.1以上)
SwitchBotスマートリモコン:SwitchBotハブ2
IKEAハブ:DIRIGERA
空気品質モニター:VINDSTYRKA
TP-Linkスマート電球:Tapo L535
テープライト:Tapo L925-5
スマートプラグ:Tapo P125M V1
コントロールハブ
など
Philips Hueハブ:Hue Bridge
表:Matter対応製品

現時点では、まだ中心となる「ハブ系」の製品、「Matterのコントローラーデバイス」の対応に限られていますね。

これは、日本のスマートホーム市場の動向から類推すると、対応製品の充足には1年くらいはかかるんじゃないかと考えています。

また、日本でよく見る企業も徐々に参画が見られ、今後ますます発展することに期待ですね。

Matter参画企業(抜粋)
  • ACCEL LAB
  • belkin
  • dyson
  • 日立グローバルライフソリューションズ
  • HP
  • iRobot
  • 三菱電機
  • パナソニック
  • 東芝
  • TP-Link

※「Participant」に登録されている企業のうち、日本企業、または日本市場で製品展開しているメーカー(2023年4月時点)

まとめ

Matterは、これまでのスマートホーム家電にあった課題を解決し、かつスマートホーム市場がより発展し普及する上で、非常に重要な共通規格です。

最後に、今回解説したMatterのメリットと懸念点をまとめます。

Matterの懸念点
  • Matterが採用されても、結局の所独自機能によって分断されないか
Matterで変わること
  • 買う際に迷いづらくなる
  • 製品の設定がしやすくなる
  • 色んなアシスタントで使えるようになる
  • 他社製品同士で簡単に連携できる
  • スマートホーム家電の幅が更に増える

当サイトでは、これまでスマートホーム分野を中心とした情報発信をしており、今後もMatterを中心とした動向について、しっかりとウォッチしてきたいと思います!

Kou

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