当サイト「BENRI LIFE(ベンリライフ)」では、2017年8月より、消費者向けのIoT(モノのインターネット)を中心に、特に「スマートホーム分野」に着目して情報発信を行い、実際にユーザーとして製品の品評を重ねながら、その動向を詳細に追ってきた。
日本でスマートスピーカーが発売されてから5年が経ち、消費者へ一定の認知もされ、スマートホーム市場は、今後益々成長していくことが予想される。

とりわけ、2023年以降の展開が予想される、スマートホームの共通規格「Matter」とその対応製品は、従来のスマートホーム家電が抱えていた問題を解決し、かつスマートホーム家電の適用範囲も増える性質にあることから、スマートホーム市場の成長を加速させる可能性が高い。
本レポートに掲載の市場調査で示す通り、日本においては、2017年〜2022年の展開が、スマートホーム(消費者向けIoT市場)の初期市場と捉えれば、2023年以降はメインストリームへの展開が予想でき、現在はその分岐点にあると考えられる。
その節目として、現在の市場動向やその発展の歴史をまとめ、今後のスマートホーム市場の動向予測を掲載している。
- 本記事は、2023年1月に公開しています。今後、1年に1回更新を行います。スマートホーム市場の動向分析に関し、お役立て頂けますと幸いです。
- 本記事の作成にあたり、市場調査の一環として、Webアンケート(計10,488ss)を実施しております。属性別の詳細データ・分析をお求めの場合、以下の「お問合せフォーム」よりご相談ください。
- 本記事の情報・調査データを引用する場合は、引用元として本記事へのリンク掲載をお願いいたします。
もくじ
本記事の位置付け
日本において、スマートホームという概念は、主に以下の軸に大別される。
- HEMS(エネルギーマネジメントハウス)
- AIアシスタント(宅内のモノをインターネットに接続することで形成されるシステム)
従来、日本ではこのHEMSによる、エネルギーマネジメントハウスが、スマートホームに近い存在であった。
このHEMSは、主にエネルギーマネジメントを主目的としており、HEMSコントローラーとECHONET Liteによって、住設へと接続する仕組みを指す。
これにより、宅内の電力のモニタリングや、家電の遠隔制御が可能であり、そのアプローチは違えど、現代のスマートホームの要素を内包するものとなっている。
これは、「スマートハウス」という俗称で、経産省が主体となり、現在も日本で推進されている。

その一方で、2017年にAmazonやGoogleといった米国の巨大企業から、スマートスピーカーが日本でも展開された。
その後、関連デバイスが多く発売され、その集合体が「スマートホーム」と呼ばれ、浸透している。
これは、家の中にある電化製品をクラウド(インターネット)接続し、それらを組み合わせることで、生活を便利で快適にすることを目指した概念となっている。

日本の家電市場ではあまり見られない、小ロットの展開が特徴で、単価が安価であることから、消費者への導入が急速に浸透しているものと見受けられる。
また最近では、海外の製品のみならず、日本のメーカー各社の独自のサービスや、ECHONET Lite Web APIを介する連携・共通化など、クラウドをベースとした「IoT家電」の普及も目立つ状況にある。
この潮流から、本記事では自宅の中にあるモノ・住設を、インターネット接続に接続することで生活の質を向上させる概念を「スマートホーム」と定義し、その動向を整理している。
現在の市場動向
まず、現在のスマートホーム市場の動向について整理する。
本章では、スマートホーム家電に関し、Webアンケート方式で市場調査を行い、その結果と当サイトの各種トラフィックデータも交え、その動向を分析している。
スマートホーム家電の認知率
スマートホーム家電の認知率は、2023年時点で「73.6%」に達しており、一定の認知度があるといえる。

(認知率=「利用したことがある」+「利用したことはないが知っている」の合計)
その認知度に対して、実際の利用経験者は「10.9%」と乖離がある。
これは、他の調査でも同様の傾向が見られ、総務省 情報通信白書(P.306)においては、2021年のスマート家電等の世帯保有率ベースでは「9.3%」となっており、同2021年のICT総研の調査においては、スマート家電を利用している回答者(n=3,226、内n=426)は「13.2%」と、いずれも10%前後で近似値となっている。

このことから、イノベーター理論に則れば、2023年の段階においても未だ「アーリーアダプター層」に留まる分野とみられ、初期市場の状態となっている。

なお、本調査では「スマートホーム家電」の利用経験を確認しており、実際には消費者が認識せず、スマートホームの要素を内包する電化製品が利用されている可能性もある。(インターネット対応のテレビ等)
そのため、次の調査では、スマートホーム家電とほぼ同様の性質にある「スマートフォンのアプリで設定・操作できる家電」を「準スマートホーム家電」と定義し、インターネット調査を行ったが、その利用率は「16.2%」となっており、スマートホーム家電の調査と比較して、増加していることも判明した。

映像系の家電(テレビ・レコーダー・プロジェクター等)の利用者が多い。
このことから、従来のスマートホーム家電のみならず、今後それ以外の一般的な電化製品のスマート化の観点においても、スマートホームの普及を考える上で、重要なポイントと考える。
スマートホーム家電の利用率
続いて、スマートホーム家電の各製品について、その利用率を調査した。
スマートホーム家電は、一般的にスマートスピーカーがその代名詞とされており、その利用率は「49.1%」とトップになっている。

この中で注目すべきは、次点で「スマートリモコン」の利用率が高い点にある。
スマートリモコンは、遠隔操作(Wi-Fi)対応した学習リモコンであり、各家電の赤外線(IR)信号を学習させ、スマートフォン等からリモコンの赤外線信号を発信することで、家電の遠隔操作を実現するデバイスである。

このため、この1個体の導入で、赤外線リモコンに対応している「テレビ・エアコン・シーリングライト等」を、一括で遠隔操作(スマホ・スマートスピーカーからの操作)できるものとなっており、かつスマートリモコン自体の単価は安いことから、人気の製品となっている。
実際に、当サイトで掲載しているスマートホーム家電の中でも、スマートスピーカーを除く売上台数はスマートリモコンがトップとなっており、利用率に比例して、その購買率も高い。
また、スマートホーム家電は、古くから「照明器具」との相性がよく、「スマートライト」や照明でよく利用される「スマートプラグ」の利用率も高いことがわかっている。
スマートホーム家電のブランドの利用率
現在のスマートホーム家電の利用率について、ブランド別に調査した。
スマートスピーカー(スマートホーム向けAIアシスタント)の利用率
利用率トップとなる「スマートスピーカー」について、その具体的なブランドについて調査した。
そのスマートスピーカー(スマートホーム向けAIアシスタント)の利用率は、以下の通り。

日本では、Amazon Echo(Alexa)の利用率が非常に多く、内、「70.4%」を占める。

Amazonは、スマートホーム製品の推進を積極的に行っており、後述する購買データを見ても、Amazonがスマートホーム市場へ与える影響は大きい。
次いで、Google Nestシリーズが39.7%という結果となっており、Amazonに次いで日本でのシェアは高い。

その一方で、AmazonやGoogleと同様に巨大テック系企業であるAppleのHomePodの利用率は低く、全体の23.8%となっている。

Appleは、従来HomeKitというホームオートメーション向けの専用規格を提供しているが、サードパーティ製品含めその展開に乏しく、他社で人気の「ディスプレイ付きスマートスピーカー」も販売していない。
このことから、Appleは、AmazonやGoogleほどこの市場に注力していない、またはシェアの獲得に苦しんでいることが、この利用動向から見てとれる。
なお、LINE CLOVAについては、日本で最も早く発売されたスマートスピーカーであるが、2022年10月をもって販売終了となり、AIアシスタントのCLOVAについても、2023年3月30日で開発終了となっている。
この理由は明かされていないが、上記調査から、AmazonやGoogleに圧され、利用者が少ないことが一因になっていると想定される。
スマートスピーカー以外のスマートホームブランドの利用率
実際の家電を操作するスマートホームデバイス・スマート家電について、その利用率も調査した。
この調査によれば、日本では「SwitchBot」の利用率が25.4%とトップになっており、頭一つ抜けた結果となった。


SwitchBotは、自宅に設置されているスイッチを物理的に押すロボット製品を中心に、スマートリモコンやスマートライトといった人気製品、またカーテンや見守りカメラなど、スマートホーム家電としてのラインナップを揃えている。
その累計販売台数は2022年9月時点で300万台を突破しており、当サイトでの購買率も最も多く、日本のスマートホームブランドのシェアトップを誇る企業である。
それ以外のブランドは横ばいであるが、注目すべき点は「SHARP COCORO HOME」「TP-Link Kasa/Tapo」「IKEAスマートホーム」といった、大手電機・家具メーカーのスマートホームブランドの利用率も多い点にある。


従来、日本のスマートホーム市場は、スタートアップや中小企業の展開が目立っていたが、大手家電メーカーの参入も増えてきており、今後更なるスマートホーム分野の普及の鍵を握ることが予想される。
なお、本調査では、その他と回答した方も「21.1%」と多いが、この内訳は、約70%が「わからない」「AmazonまたはGoogleのスマートスピーカー」、残り30%(全体の約7%)の回答は「パナソニック」「アイリスオーヤマ」「東芝」「エネファーム」などで、これらブランドも全体の数%の利用率であることもわかった。
- TP-Link Kasa/Tapo
- IKEAスマートホーム
- Anker Eufy
- SHARP COCORO HOME
- SONY MANOMA
- パナソニック HomeX
スマートホーム家電の利用シーン
スマートホーム家電は一般的にどのように利用されているか、調査した。
スマートホーム家電は、スマートスピーカーによる家電の音声操作が目立つが、実際に最も多く利用されているのは、「スマートフォン・タブレットのアプリ」であることがわかった。

最近では、Alexa対応のFireタブレットなどを代表とし、スマートスピーカーに限らず、既存のタブレット製品等が、スマートスピーカーの役割(ハブ要素)を持つことも増えている。
同様に、スマートウォッチやイヤホン・ヘッドフォンといった、周辺機器も、スマートホーム向けの利用率としては、それぞれ「19.2%・15.5%」と利用されていることもわかった。
この実際の利用動向や製品展開の傾向から、スマートホームのハブデバイス・操作デバイスは、必ずしもスマートスピーカーにあるわけではないと言える。

なお、スマートホーム家電の利用シーンとしては、「照明のオンオフ・調光」といった、室内照明の制御が、41.8%とトップとなっている。
スマートホーム家電は、遠隔操作の観点において照明器具との相性が良く、スマートスピーカーが日本で発売された初期の頃から関連製品が展開されており、AIアシスタントの機能も早期から確立されていた。現在でもその流れは継続しており、利用者が多い。


その他、テレビの操作(41.2%)、空調の制御(40.2%)といった、利便性目的の用途が中心であるが、海外での利用率の高い、ホームセキュリティや、日本では少子高齢化の影響で市場規模が大きいと見られる「見守り」用途が、これらと比較して少ないこともわかった。
スマートホーム家電の導入と課題
スマートホーム家電の導入にあたって、その購入先や予算、また利用後の課題等について調査した。
スマートホーム家電の導入前に関して
以下の結果によれば、スマートホーム家電の購入先は、Amazonが「50.6%」を占め、その予算は「1万円から5万円」で、「計56.7%」となった。

先述のAmazon Echoで見られるように、積極的なスマートホーム家電の販促により、Amazonからの購入が非常に多い結果となっている。
また、当サイトでのアクセス動向及びAmazonアソシエイトの購買では、特に「Amazonプライムデー」や「Amazonブラックフライデー」において、通常時の約20倍前後のトラフィックが発生し、本イベントが、日本のスマートホーム市場に大きな影響を及ぼしていると考えられる。

先述の「スマートスピーカーの調査」にも示した通り、日本のスマートホーム市場は、Amazonの影響力が非常に大きいことが見て取れる。
また、特筆すべき点としては、Amazonに次いで、実店舗での購入が多いことにある。
認知率の調査にもある通り、スマートホーム家電が一般に浸透していると見受けられる。
また、スマートホーム家電の購入の予算も、1万円〜5万円台が大半となっており、上記「スマートホーム家電の利用率」で掲載のスマートホーム家電を単体で購入した場合(1万円以下)、ある程度セット購入した場合(3〜5万円程度)の金額と近似値となっており、この価格帯がスマートホーム家電の相場といえる。
商品画像 | 商品名(リンクはAmazonサイト) | 製品概要 | 販売価格(単位:円) |
---|---|---|---|
![]() | SwitchBotハブ2 | Switch BotシリーズをWi-Fi対応させるための ネットワークハブ。 スマートリモコンとしても利用でき、 赤外線リモコンで操作する家電を操作可能 廉価版のSwitchBot Hub miniもあり。 ※適用例:エアコン/テレビ/ シーリングライトの遠隔操作 | 8,980 |
![]() | SwitchBot | 指の代わりに物理スイッチのボタンを押してくれるロボット ※適用例:照明スイッチ/浴室リモコン/ 床暖房の遠隔操作 | 3,851 |
![]() | SwitchBot 温湿度計 | スマホのSwitch Botアプリで温湿度が 確認・自動操作できる温湿度計 ※用途:空調制御/見守り | 1,980 |
![]() | SwitchBot カーテン | カーテンの開閉をスマホやスマートスピーカー から操縦できるロボット。 ブラインドもあり。 ※用途:目覚まし/防犯 | 10,022 |
![]() | SwitchBotボタン | Switch Botシリーズをボタンで操作できる IoTボタン ※用途:ボタン1プッシュで一括開閉 | 1,980 |
![]() | SwitchBot スマートプラグ | SwitchBotアプリで操作できるWi-Fi対応 スマートプラグ。 家電の主電源をオンオフ可能 ※用途:間接照明/サーキュレーターの オンオフ | 1,980 |
![]() | SwitchBot スマート加湿器 | SwitchBotシリーズで利用できる 超音波加湿機 ※用途:加湿 | 5,578 |
![]() | SwitchBot防犯カメラ | SwitchBotアプリで映像視聴可能な 防犯・見守りカメラ ※用途:ペットカメラ、防犯カメラ、 ベビーモニター | 2,980 |
![]() | SwitchBot防犯カメラ(首振り) | SwitchBotで映像視聴可能な 防犯・見守りカメラの首振り対応版 ※用途:ペットカメラ、防犯カメラ、 ベビーモニター | 4,480 |
![]() | SwitchBot人感センサー | SwitchBotシリーズで利用可能で 仕組みづくりに役立つ人感センサー ※用途:人感照明等 | 2,480 |
![]() | SwitchBot開閉センサー | SwitchBotシリーズで利用可能で 仕組みづくりに役立つ開閉センサー ※用途:家電自動操作、戸締まり確認 | 2,481 |
![]() | SwitchBot NFCタグ | NFCタグ。 タッチをトリガーにSwitchBot製品の 操作が可能 ※用途:家電操作 | 980 |
![]() | SwitchBot スマート電球 | SwitchBotアプリで操作可能な スマート電球 ※用途:照明操作 | 1,899 |
![]() | SwitchBot テープライト | SwitchBotアプリで操作可能な テープライト ※用途:照明操作 | 2,480 |
![]() | SwitchBot スマートロック | スマホ等で鍵の開け閉めができる スマートロック ※用途:玄関のドアの開け閉め、戸締まり確認 | 9,980 |
![]() | SwitchBotキーパッド | SwitchBotスマートロックを暗証番号 or NFCカードで解錠できる オプション品。 +指紋認証の「キーパッドタッチ」もあり ※用途:玄関のドアの開け閉め、キーシェア | 4,980 |
![]() | SwitchBotシーリングライト | SwitchBotアプリで操作可能な シーリングライト。 スマートリモコンHub mini「内蔵型」も。 ※用途:照明操作 | 4,980〜 9,980 |
![]() | SwitchBotロボット掃除機 | SwitchBotアプリで制御できる ロボット掃除機。 自動ごみ収集タイプ(S1+)、 コンパクトタイプ(K10+)もある。 ※用途:掃除 | 39,800〜 69,799 |
導入した目的・きっかけとしては、家電の音声操作が32.4%とトップ、次点で外出先からの家電操作が30.6%、時短・家事効率化が29.0%と、生活利便性の向上が目的となっていると思われる。

スマートホーム家電の導入後に関して
スマートホーム家電の利用満足度を調査したところ、満足以上の回答をしている人は「62.5%」となっている。

その一方で、スマートホーム家電で課題に感じる点も確認したところ、約76.9%(全体から特に課題を感じていないの回答者を差し引いた数)の利用経験者が、課題を抱えていることも判明している。

特に「設定が面倒、難しい」とした利用者が、27.6%と最も多い。
また、価格が高い(26.6%)と回答した方も多く、ネットワークへの接続といった、可用性に関わる部分に課題を感じる方も比較的多い(22.4%)ことがわかった。
価格面に関しては、昨今の物価高騰の影響もあり、すぐに改善されることは難しいと思われるが、今後展開されるスマートホーム共通規格「Matter」によって、この設定・ネットワーク接続の課題がどれほどの範囲で整備されるかが、更なる満足度向上のポイントになると思われる。


日本におけるスマートホーム市場の歴史
日本において、スマートホームの製品・サービスが最初に発売されたのは、2015年頃に遡る。
- Philips Hue(2015年)
- intelligent HOME(2015年)
- au HOME(2017年)
- Homebridge(Apple HomeKitのオープンソース)(2015年)
ただ、当時は、主にHomebridgeを活用した開発者の間で用いられることが中心であり、その注目度もそれほど高くはなかった。
日本では、スマートスピーカーが登場した2017年頃に合わせ、スマートホーム市場が活性化している。

先述の調査の通り、2023年時点では認知率が「73.6%」に達しており、一定の成長が見られた。
本章では、その発展の歴史について、年単位の時系列でまとめる。
2017年の動向〜スマートスピーカーの発売〜
日本においてスマートホームが大きく注目され出したのは、すでに米国でヒット製品となっていた「Google Home(当時)」や「Amazon Echo」が、日本でも発売されるとの報道が出たタイミングであった。
それに先んじて、2017年8月にLINE WAVE(現:CLOVA WAVE)が発売された。
これが、日本で発売された最初のスマートスピーカーとなる。
LINE WAVEは発売されたものの、機能が実質的に音楽視聴のみとなっており、スマートホーム家電ライクな利用はほとんどできなかった。
その後、2017年10月に発売された「Google Home」は、発売初期時点から言語の認識精度が高く、一定の機能(調べ物やスマートホーム家電連携)を有していたことから、この頃より実際に利用してきた人が増えていることが、先述のGoogleトレンドのデータにも表れている。
とはいえ、当時はまだGoogleアシスタント内に家電操作機能がほとんど備わっておらず、メーカー独自で開発された「カスタムスキル」による連携か、「IFTTT」プラットフォームを利用した連携が中心であり、導入や実際の利用にハードルがあった。


当時ヒットした製品は、「Philips Hue(スマート電球)」および「Nature Remo(スマートリモコン)」が挙げられるが、スマートホーム関連製品は、市場に数製品程度しか存在していなかった。


かつ機能が少なかったことや、デバイスの設定も現在のように簡易的なものでなく、その注目度に対し、それほど普及が進んでいなかった。
この状況下で、「Amazon Echo」が招待制での発売が開始されるなど、2018年以降の普及に向けた下地が徐々にできている。
- LINE WAVE(現Clova WAVEシリーズ)
- Google Home(現Google Nestシリーズ)
- Philips Hue
- Nature Remo
- MicroBot Push
- Qrio Smart Lock(現Qrio Lock)
- intelligent HOME(サービス)
- au HOME(サービス)
当時、日本で流通していたスマートホーム家電の製品・サービスは、上記10個程度。
2018年の動向〜スマートリモコンの普及〜
2018年は、「スマートリモコン」に多くの新商品が発売されており、これを中心にスマートホームが普及した。
スマートリモコンは、スマートスピーカーと連携させることで、自宅にある既存家電のうち、赤外線操作機構を持つ「エアコン・テレビ・シーリングライト」をスマートフォンから一括で操作できる。
かつスマートスピーカー連携機能によって、それらの家電を音声操作できることから、スマートホーム家電として大きくヒットした製品となった。




それ以外にも、下記の製品が発売されているが、スマートリモコンほどの販売台数ではなかった。
- ネットワークカメラ:Alro Pro(Echo Spot対応)
- スマートプラグ:TP-Link
- スマートロック:セサミmini
- 3-in-1シーリングライト:popIn Aladdin
参考までに当サイトの実績を紹介する。
2018年4月〜2019年3月にかけて、当サイトはSEOで「スマートリモコン」および「スマートロック」というキーワードで1位、「スマートホーム」で2位の実績となっており、Google検索において、日本でスマートホームに関する流入数がトップクラスに多い状態にあった。
その結果、得られる購買データを比較しても、スマートリモコンの方が5倍以上購入数が多く、そのコストパフォーマンスが光る結果となっている。
一方、音声アシスタント側の動向は、特にAmazon Alexaで動きが見られ、スマートホームの観点に着目すれば、以下のフレームワークが加わった(日本語対応した)ことが大きい。
- TV Controller(2018年10月)
- Thermostat Skill:エアコン向けの操作機構(2018年12月)
従来、音声アシスタントでは、照明以外の家電操作は、「カスタムスキル」と呼ばれる、メーカー側が個別に開発したスキルによって、操作がなされていた。
これは、メーカーの独自機能を実装できることがメリットであるが、ユーザーがこれを利用する場合、「”(スキル名)を使って、”エアコンをつけて」などといった枕詞をつける必要があり、ユーザービリティを損なうことが難点であった。
これを回避するために、その枕詞を回避できるIFTTTを用いた連携というのも主流であった。
この音声アシスタント標準スキルは、それまでの課題であった「操作に枕詞が必要なこと」「AIアシスタント以外の別サービスとの連携設定」を解消できるものであり、その使い勝手は大きく向上した。
この点も、2019年以降の市場の成長に寄与していると思われる。
2019年の動向〜ディスプレイ搭載スマートスピーカーの登場〜
2019年は、ディスプレイ型のスマートスピーカーが台等した年となった。
Echo Show第2世代(正確には、2018年12月発売)がその皮切りとなったが、それが浸透したのは、2019年6月に以下の2製品が発売されたことにある。
- Echo Show 5
- Google Nest Hub


ディスプレイ型としては安価な製品となっており、音声のみならず視覚情報も得られることから、購入する方も大きく増え、スマートホーム家電の導入が進む契機になったと思われる。
これとほぼ同時期に、Fire HD 8/10が、Alexaハンズフリー・Showモードに対応し、既存のFireタブレットにもAlexaが搭載され、スマートホームの操作デバイスとしても扱えるようになった。

加えて、先述の音声アシスタントの標準スキルが備わったこと、より多くのプロダクトが投入され、スマートホームが徐々に利用しやすいものとなっていった。
この「ディスプレイ型スマートスピーカー」と先述の「フレームワークの追加」によって、2019年にスマートホーム製品の展開が多く進んでいる。
実際に、以下の記事では、Amazonデバイス部門のヴァイスプレジデントのミリアム・ダニエル氏が、タッチ操作や視覚情報の重要性を指摘している。
また、この年に、Apple初のスマートスピーカーである、HomePodも発売されている。

それ以外にも、大手家電メーカーのSHARPが、「COCORO HOME」というスマート家電の連携サービスや、3-in-1シーリングライトとして現在でも人気の「popIn Aladdin 2」の発売、IoT関連を多く取り扱う中国の大手電化製品メーカーである「Xiaomi」の日本参入など、市場が活気付いている印象があった。
また、スマートホームの共通規格:Matterの前身である、「Connected Home Over IP(CHIP)」もこの年に発表されており、スマートホーム市場が活性化していた。
2020年の動向〜在宅需要の拡大に伴う普及〜
2020年は、特に新型コロナウイルスの影響により、在宅需要が高まり、それに伴ってスマートホーム家電の需要も増えた年であった。
当サイトでも、特に2020年4月〜9月にかけ、通常の1.5倍程度のアクセスを計測しており、製品の購入率も比較的多かった。
製品についても、従来のスマートリモコンやスマートロックといった人気製品のみならず、スマート機能を搭載したAnkerのネットワークカメラや、+Styleの全自動コーヒーメーカー、カーテンを操作するSwitchBotカーテンなど、幅広く発売されている。




また、それに同調される形で、Amazon Alexa(スマートホームスキル)やGoogleアシスタント(Direct Actions)のスマートホーム向け機能も増え、徐々に電化製品の管理・操作機構も備えていくなど、一定の成長が見られた。
2021年の動向〜Matterの発表〜
2021年は、スマートホーム市場で大きく2点のニュースがあった。
- スマートホーム共通規格:Matterの発表
- Amazon Astroの発表
このうち、特にスマートホーム共通規格である「Matter」に大きな注目が集まった。
Matterとは、Amazon・Google・Amazonを始めとする米国のIT企業280社以上が参加している無線通信規格の標準化団体が策定した、スマートホームのための共通規格とされている。

画像:CSA(Promoters)
このスマートホーム規格は、2019年時点でConnected Home Over IP(CHIP)として策定されていたが、後に「Matter」として改称され、リリースされている。
従来、スマートホーム家電は、各種サービスや通信規格によって、それぞれの接続が分断されていたことが課題であったが、Matterはそれを共通化することで、より横断的な製品連携や簡易的な設定を可能とする。
Matterは、その仕様上、一般的なホームネットワークを形成するほぼ全ての通信規格を抽象化するため、その影響範囲は非常に広く、今後のスマートホーム普及の鍵を握ると予想される(詳細は後述)
その他、プロダクトとして目立つものは、家庭用ロボットである「Amazon Astro」が発表されており、家庭用見守りとして米国で招待制導入で導入され、随時展開されるものとなっている(日本未発売)
この年にもメーカー各社から新製品も発表されたが、2019年〜2020年に比較すると、やや落ち着きが見られた。
- Echo Show 10
- Echo Show 8 第2世代
- Google Nestドアベル
- Google Nest Hub第2世代
- セサミ3/4
- ATOM CAM 2
- SwitchBot屋内カメラ
- SwitchBotロック
※リンクは製品レビュー
2022年の動向〜Matterの正式リリース〜
2022年においては、スマートホームデバイスの成長も安定化を見せ、多くの製品が売れている。
それを象徴するのが2022年のAmazonプライムデーで、SwitchBot Hub miniが、同セールにて「特に多く売れたもの」としてランクインしている。
その一方で、2022年は目立った新製品の発表が少なく、2018年頃から続いた製品展開は落ち着いてきている。
※リンクは製品レビュー
また、この年は、スマートホーム市場において、暗雲の立ち込めるニュースも多かった。
先述の通り、日本では最初に発売されたスマートスピーカーである、LINEの「Clova」についても、2022年10月末で販売終了、2023年3月30日をもってAIアシスタント:Clovaも、開発終了となっている。

同様に、Google(Alphabet)・Amazonの決算公告において、Amazon AlexaやGoogleアシスタントの関連事業が軒並み赤字となっており、特にAmazonでは、Alexaデバイス部門を含む、大規模人員削減を実施するなどの報道が目立った。
背景には、物価・人件費の高騰や世界的な景気後退の影響もあるが、スマートホームの根幹ともいえるAIアシスタント関連事業は、その販売数に比して、利益の獲得に苦慮していることがわかる。
また、2018年〜2020年にかけて多く展開されたスマートホーム製品群も、住宅の一定の領域に展開されきったことで、類似製品も多くなり、徐々にコモディティ化しているようにも映る。
以下に述べる今後の展開により、これらの状況が打開されるかどうかが、今後のスマートホーム市場発展の重要なポイントと考える。
今後の予測|注目すべきポイントは?
前章までで、現在の市場動向や発展の歴史を整理した上で、今後のスマートホーム市場の予測及び更なる普及に向けた重要な要素についてまとめる。
「Matter」による更なる電化製品への展開
今後、スマートホーム普及の鍵を握るものは、スマートホーム共通規格:「Matter」であると考えられる。
Matterとは、GoogleやAmazon、Appleなど異なるプラットフォーム間で相互運用性を認証する規格を示す。
スマートホーム機器の接続互換性を確保するための取り組みであり、Amazon、Apple、Google、SmartThingsなど、280社以上の企業が参加している。
従来スマートホームは、各メーカーより個別に製品・サービスが展開されたことによって、それらを相互利用・連携できないことが、ユーザビリティを損なう大きな要因の一つであった。
これを、共通のアプリケーション層とデータモデルを使用して、複数のIPネットワークにまたがるデバイス間の通信を可能とすることが、Matterの特徴である。

(TCP/IP 4階層に分類、具体的なサービス名を明記し改変)
これまでより優れた相互運用性、信頼性、セキュリティ、シンプルさを実現するデバイスを、幅広いメーカーから選べることになる。
というのが、Matterの基本的な趣旨であるが、あくまでこれは規格であり、実際に製品として展開されていない現状では、どのような発展を遂げるかは不透明な部分がある。
実際に仕様を確認したところ、今後改善される点として、以下の4点が挙げられる。
- 製品の初期設定がより簡単になる
- ハブを意識する必要がなくなる(仕組みづくりもしやすくなる)
- ローカル接続が可能となる
- 各種ホームアプリへの対応がしやすくなる(特にApple HomeKit)
Matterに関する詳細は、以下の記事でまとめました。
上記のポイントから、Matter展開の初期段階においては、従来のスマートホーム製品の導入が、より簡素化されることに期待できるが、Matterの真に着目すべき点は、今後スマートホーム家電と認知される電化製品が増える可能性が高いことにある。
スマートホーム家電は、従来AIアシスタントの「音声(VUI)」に注目が集まり、結果的にAIアシスタントが牽引する形で成長してきており、音声操作と相性の良い家電がスマートホーム家電として認知されてきた。
これが、各社ホームアプリへ簡易的に登録できることによって、製品の設定・操作が簡略化するだけでなく、上記以外の家電も、スマートホーム家電の対象として認知されやすくなると想定される。
この性質や、Matterの下位レイヤーの通信規格すべてを抽象化するといった特性から、これまでスマートホーム家電に限らず、「通信機能を持つ全ての電化製品」に影響を及ぼす可能性がある。
そのように考えると、Matterの影響範囲は非常に広く、今後あらゆる電化製品の通信規格のスタンダードの一つになると言っても過言ではないほど、影響の大きい規格である。
先述の調査の通り、現在、日本のスマートホーム家電は、初期市場(利用率10%前後)の段階にあると見られ、丁度キャズムを超えるか否かという段階に来ている。
これが、Matterによって、既存の電化製品へ浸透しやすくなること、またアーリーアダプター層が抱えていた課題を解決することによって、その導入が促進されれば、日本市場においても、メインストリームへの普及が進む可能性が高い。
日本ではまだMatterへの参画企業は少ない状況だが、このMatterが、従来のスマートホームの枠を超えて、どこまでの範囲に影響を及ぼすのかという点が、今後の注目ポイントであると言える。
家の中から外への拡張(5G派生の動向)
スマートホームのみならず、IoT市場全般で、その発展の糸口としてよく述べられるのは、5G(第5世代移動通信システム)の普及である。
5Gは、「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」という特徴があり、日本では2020年から商用サービスが開始されている。
総務省によれば、2023年度末には、人口カバー率が95%となるとされており、以後2030年度末には99%を目指すとされている。
この5Gについては、様々なサービスが展開される見込みだが、その中心の一つは、スマートシティの発展にある。
スマートシティとは、ICTなどの新技術の活用によって、都市の諸問題を解決し、生活の質を向上させる概念のことを示し、その手段として無数の機器を接続することとなる。
そのため、特に5Gの「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」といった特性が活かされる。

前章の調査から想定されることとして、スマートホームの利用率が認知率と比較して少ない要因として、個別の製品選択や設定以外にも、導入目的が「利便性の向上」に留まり、人々の「生活必需品」となるまでには至っていないことが大きな要因と考える。
加えて、スマートホームはインターネットによる機器間の相互接続がメリットであるが、その範囲は家の中に限定されている。
今後の家の外界(スマートシティ)の発展により、この機器や設備間の相互接続が前提の生活となった後に、スマートホームを同時に必須の要素となり得る。
また、先述のMatterは、これらの通信規格も抽象化するため、家の中だけでなく、家の外との相互接続という点でも、重要になると思われる。
日本では、Matterへの参画企業も少ないが、今後海外企業を中心としたスマートホーム展開は、その適用範囲をさらに拡張する可能性があるため、引き続きその動向を注視していきたい。
おわりに
これまで初期市場にあったスマートホーム分野は、今後さらに成長する見込みだが、特に2023年は、以下の3つの要素が一手に重なる重要な年と考える。
- Matter対応製品の展開
- 5Gの普及(人口カバー率95%以上)
- 日本市場のキャズム超え(普及率16%以上)
スマートホーム市場は、2017年のスマートスピーカーの日本発売から5年が経ち、本格的な普及に向けた分岐点にあると捉え、今回の動向レポートを作成した。
市場の認知度は十分なものとなっているため、今後さらに普及が進むか否かについて、当サイトでも注視していく。